広大な乾燥地帯である西アジアにおいて,唯一農耕・牧畜が可能な「肥沃な三日月弧」と呼ばれる地域は,永らく西アジア文明の中心と考えられてきた。しかしこれは都市・農村世界に偏った解釈であり,「肥沃な三日月弧」の外側で発展した遊牧社会を含めなくては真の中東理解は成立しない。
本研究では,先史考古学の各手法に加えて,動植物や環境科学の研究手法を用い,西アジアの遊牧社会成立過程を多面的かつ包括的に追跡する。これにより,都市・農村世界に偏った従来の西アジア観を根底から刷新して,「肥沃な三日月弧」の内外を見据えた,格段に包括的な西アジア理解につなげることを目指す。具体的には,以下の課題解明を目標とする。
我が国の西アジア考古学は,日本考古学伝統の精緻な発掘・分析を標榜するばかりで,ことパラダイムに関しては依然として追随的であった。本研究は,これに挑戦するものである。